将棋、人間の象徴VSコンピュータの象徴

こんにちは!

ノラフェンリルです。

 

昨日頑張って育毛の記事を書いていたら、パソコンがエラーして消えてしまったので、先に将棋の記事から気を取り直して書いていこうと思います。

 

 

 

人間とコンピュータ将棋

 

今回のテーマは将棋における人間とコンピュータの関係についてお話ししたいと思います。今まで人間とコンピュータはことあるごとに将棋界では力関係において隔たりがありましたが、近年その力関係について一つの決着がつき、今後の動向が注目を集めています。

 

1.そもそも実力では人間は機械に勝てない

 現在、そもそも人間どうしで将棋をやることに意味があるのかについて疑問が出てきています。原因はAI(人工知能)の進歩です。

 

 昨今のAIの進化により、人間よりもAIの方が役に立つ場面が増えてきていますが、将棋についても同じことが言えます。

 

まず第一前提としてもはや、人間の棋士がAIを将棋において負かすことはできません。

 

2017年4月1日及び5月20日に行われた電王戦THELASTにおいて

佐藤天彦 名人とAI PONANZAの対局が行われましたが結果はPONANZAの圧勝でした。

 将棋における人間サイドの最高峰、名人がコンピュータに土をつけられたこともとても大きな出来事ではありましたが、同時にこの対局の内容は人間の将棋に大きな影響をもたらしました。

 

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PONANZAは人間にとって大切な将棋の象徴を破壊していったのです。それは穴熊囲いです。

 

2.人間の象徴、穴熊囲い

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 将棋の格言において「隙があれば穴熊」という格言があります。

 この格言の意味は読んで字のごとく隙があったら穴熊囲いに王様を囲った方がいいですよという意味です。こんな格言になるほど穴熊囲いは優秀な囲いなんです…

 

…人間にとってはね。

 

 

 

 さて、穴熊囲いが優秀な点は数多くあります。

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 第一に遠さです。王様が一番端っこに囲ってあるため、戦場からの最も遠く王様を避難させることができます。相手はいくら必至に攻めても、その遠さ故になかなか穴熊囲いの王様に攻撃を届かせることができません。

 

攻めても攻めても、いくら頑張っても届かない絶望感…とにかく戦場から遠いというだけでも、すさまじく精神的なダメージくるのです。人間ならね…

 

 第二に堅さです。上の図を見ていただけると分かりますが、(駒の書体が長禄のためわかりずらいかもしれませんが)金銀4枚で王様が守られています。金銀は駒の中でも特に防御に優れた駒です(特に金)。それが4枚使われているのですから、その防御力はすさまじいものがあります。王様の遠さとマッチして防御力はすべての囲いの中でトップクラスです。穴熊に囲われただけでため息がでるとおっしゃるプロ棋士いる位うんざりするほど堅いのです。

 

 第三に王手がかからない点です。遠い上に、多数の金銀に深く囲われた穴熊は一手で王手をかけることができません。将棋の終盤においては、相手よりも早くとどめをささなければ負けてしまいます。

 自分の王様に危険が迫る中、相手を足止めする最大の手段は、相手の王様に王手をかけることです。王手をかけられた相手は、王手をかけた駒を取り払うか、王様を逃げるかして王手を防がなければなりません。つまり、相手の王様を攻撃すれば、自分の王様への攻撃を緩和することができるんです。

 

 「攻撃は最大の防御なり」は将棋でも共通の格言なんです。

 

 でも悲しいことに穴熊囲いは1手で王手をかけることができません。

 ゲームのような言い方をすれば相手の王様に直接攻撃(王手)をかけるのに最低でも2ターンはかかるのです。

 

 終盤の1手が勝敗の命運をわけるような場面でこの特性は凶悪の一言です。

 想像してみてください。相手からは致命傷の攻撃がバンバン飛んでくるのに、相手の王様は穴熊だからこちらの攻撃はまったく届かない。防戦一方でやがてじり貧となっていきそのまま討ち取られてゲームオーバー。

 

 こんな負け方がプロの世界でも起こってきた、その原因となったのが穴熊なのです。

 

第四に(まだあんのかよ…あるんですよ【絶望】)

 理不尽を押し通すことができると言うことです。

は?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これが人間にとって穴熊が頼りになる最も重要な特性なのです。

 

 理不尽なのは攻撃、防御両面に言えることなので、まず攻撃面からお話します。

 

 それは駒損攻めが許される点です。

 通常将棋において攻撃を行う場合は、中心になるのは飛車と角の大駒と呼ばれる駒です。この二つは攻撃範囲が最も広い駒で各陣営に1つしかないため、失わないように大切に扱って行かなければなりません。

 

 もし、大駒を早々に失うようなことになれば、失った駒は相手に使われてしまうため、相手から強烈な反撃を浴びることになります。

 

 しかし、穴熊においてこの常識はかなぐり捨てることができます。穴熊はその絶対的な防御力故に、たとえ飛車角の大駒を失っても、

 

 攻めさえつながってしまえば、どうにでもなるのです。

 

 たとえ歩と銀と桂馬と香車の攻めだったとしても、遅い攻めだったとしても許されるんです。なぜか?

 

こちらは穴熊だから、相手からの攻撃が届かないからです

 

飛車も角も強力な駒であり、相手に渡すと厄介なんですが、穴熊の場合はそれらを使っても簡単に反撃されることがありません。

 

反撃策がないことが分かっているから、大駒をたたき切って暴力的に、とても理不尽に攻め立てることができる。

 

そのあまりにも理不尽なさまを嘆いて、将棋ファンたちはこの様子を

穴熊の暴力」などと言っているわけです。

 

次、防御面ですね。

これも攻撃面と似てはいるのですが、その高い防御力故に、多少間違えてしまっても

立て直しが効くんです。

 通常であれば少し間違えてしまえばその隙を突かれて相手から手痛い反撃を食らって負けにつながってしまうことも多いのですが、穴熊の場合は相手からの攻撃が届くのにかなり時間がかかるので、相手が攻めあぐねている間にこちらの態勢を立て直すことができるのです。

 

 これは人間にとってはもっとも重要なことです。

なぜなら、人間は機械と違ってどうしても間違いを起こしてしまうからです。

 

たとえ間違えてしまっても穴熊囲いだから、なんとかなるというその度量の広さが穴熊囲い最大の魅力なのです。

 

どんなに努力しても、間違いを起こしてしまう人間だからこそ、

穴熊囲いはここまで愛されてきたのです。

まさに、穴熊囲いこそが人間の将棋にとっての象徴的な囲いといっても過言ではないでしょう。

 

3.コンピュータの象徴、雁木囲い

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、穴熊囲いが間違えてしまう人間にとっていかに象徴的な存在かをお話してきました。

 話を先ほどの電王戦に戻していきます。電王戦2017年5月20日に姫路城で行われた電王戦第二局において佐藤名人は先手番ではありましたが、よりじっくりと戦うために王様の囲いを穴熊へと進展させました。

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 対するPONANZAの囲いは雁木囲いと呼ばれるもので、防御力はあまり高くありませんが、バランスがよい構えです。コンピュータは穴熊のような陣形が偏るような囲いを好まず、雁木のようにバランスがよく隙の少ない構えを好んでいます。

 

なぜかと言えば、コンピュータは人間よりも思考力が優れているため、たとえ防御力が低い構えであったとしても、相手の攻撃を正確に受けきる技量があるためです。

 

これがもし人間がコンピュータの構えをまねしようものなら、少しでも相手の攻撃を受け損なえば、即死するような危険性があります。

 

この電王戦第二局は、人間の象徴である穴熊囲いとコンピュータの象徴である雁木囲いのまさに一騎打ちのような構図になりました。

   

  人間の象徴VSコンピュータの象徴

 

4.人間の象徴の敗北

 94手目4四金の局面で先手 佐藤名人の投了となりました。

下図は投了図となりますが、佐藤名人の穴熊は完全に破壊されており、金銀はうわずってもはや守りの意味をなしていません。それにたいし、PONANZAの雁木は全くの無傷で残っています。

 私はネット中継でこの対局を見ていたのですが、もしかしたら穴熊囲いならば、人間将棋の象徴であり、最高の防御力を誇る穴熊ならば、コンピュータに一矢報いてくれるかもしれないと願って見ていたのですが、結果は予想を裏切らず、人間側の敗北で終わりました。

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 この将棋の反響は大きく、一時期プロ間でも穴熊の採用率は落ち込みました。中には穴熊囲いは時代遅れと言う方も現れ、これからはコンピュータのようにバランスの良い陣形を採用して戦っていく時代と主張するプロ棋士も現れました。

 

 これは増田先生の著書ですが、堅さではなく、バランスが重視されるようになった経緯が詳細に書かれており、読み物としてもとても面白い内容となっています。詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。

 

増田康宏の新・将棋観 堅さからバランスへ (マイナビ将棋BOOKS)

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5.人間の将棋に価値はないのか

 

 将棋界最高峰の名人が、人間将棋の象徴たる穴熊囲いを使ってなおコンピュータには勝てなかった。この事実をもって完全に人間はコンピュータに将棋において完全敗北を喫したわけです。

 実を言うと、人間がコンピュータに勝てないことはだいぶ前から分かってきてはいたのですが、実際に名人とコンピュータが対局をする機会は今までになく、これが事実上の決着となりました。

 

 強さの探究というのは将棋の大切なテーマの一つです。レベルの高い将棋を指すことはプロだけでなく、私たちアマチュアの切実な願いでもあります。

 かの彗星、藤井聡太七段がなぜ、あそこまで世間を賑わせたかと言えば、彼が若くして、圧倒的に強かったからです。

 

 しかし、人間はコンピュータよりも弱いということが決定づけられてしまった以上、もうこれ以上人間が将棋の強さを探究する意味はないのではないかという疑問が生まれたのです。

 

つまり、どんなに頑張ってもコンピュータには勝てないんだから、人間が将棋をやる意味はないのではないか?ということです。

 

 これは実際将棋に限った問題ではないのです。近い将来AIが発展することで多くの人が仕事をAIにとられると言われています。それほどAIは優秀であり、恐ろしい速度で人間に迫っている、いえ人間の知能を越えてきているのです。

 

どんなに頑張ってもコンピュータに勝てない分野だから、人間はやる必要ない。

 

これは、果たして将棋に限った話なのでしょうか?私にはとてもそうは思えません。

 ただ一ついえるのは、強さの探究という側面においては人間が将棋を指す意味は失われたのです。

 

 

◎まとめ

 

 はじめは将棋の魅力についての記事を書こうと思っていたのですが、どうしても将棋の魅力をするのお伝え上でコンピュータと人間の関係についてあらすじを書いていたら一つの記事になってしまいました(笑)

 

 コンピュータは圧倒的な演算能力で間違わないことを前提にした防御力が低いバランス型の雁木囲いを。

 人間は間違ってしまうことを前提に防御力が高く、バランスが悪い穴熊囲いを長年使ってきました。

 

 両者の囲いは実に両者の利に適うように設計されています。当然戦い方もそれぞれ変ってくるのです。

 

 戦い方も、その前提も何もかもが違う、だからこそ人間同士の将棋にはコンピュータの評価値でははかることができない別の評価基準があるのです。

 それこそが、私が将棋の魅力だと思っていることであり皆さんにお伝えしたいことであります。

 

今回は長くなってしまったのでいったんここで失礼いたします。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。