強豪プロ棋士も愛用する中飛車の魅力
こんにちはノラフェンリルです。
今日は私の好きな棋士の一人である菅井竜也七段の中飛車をとおしてプロレベルの中飛車について書いてみたいと思います。
菅井竜也七段とは?
菅井七段は岡山県出身の棋士で、現在27歳の若手棋士です。戦型は居飛車、振り飛車両方を扱うオールラウンダーですが、
大事な対局には振り飛車を用いる傾向が強く、
振り飛車党という認識が強く印象があります。
そんな菅井先生は2017年には羽生善治三冠(当時)から王位のタイトルをダッシュし、初のタイトルを獲得しました。名実ともに実力を伴ったこれからの活躍を期待されている棋士のひとりです。
菅井七段ってどんな棋士?
1.振り飛車を多く採用する傾向
そんな菅井七段は公式戦において振り飛車の採用率が大きい傾向があります。
加えて、彼の名前のついた戦法も多く存在しているほど、独創性の高い特殊な振り飛車を指される先生です。※
※菅井流三間飛車や今までの常識を破るような新戦法を多くリリースしている。
ただし、常識はずれなだけあって使いこなすのにはかなり力量が要求される。
【菅井流三間飛車】…通常であれば5筋(中央)に飛車を配置し、ゴキゲン中飛車の構えをとるところを5筋をすっ飛ばして、3筋に飛車を配置する常識破りな戦法。ゴキゲン中飛車に対する居飛車の対策が精度を増し、ゴキゲン中飛車の戦法としての存続が危うい状況となったため、出てきた経緯がある。
角交換からから5三の地点に角を打ち込まれてあっという間に馬を作られてしまうが、相手が馬を作っている間に菅井流側は陣形を整備できるという主張がある。
実際にプロの実戦でも居飛車側が馬を作る変化を選んだ変化が一戦だけあり、実戦は振り飛車側が陣形の利を生かして勝利している。
参考棋譜:2017年7月20日 第76期順位戦B級1組2回戦
先手 松尾 歩 八段 対 後手 菅井 竜也 七段
そんな菅井七段の中飛車は勝率も高く、多くの中飛車党からも強く指示される極上の一品とも言われています。
2.中飛車の囲い
中飛車には二つの囲いが存在します。一つは前回の記事でも紹介した片美濃囲い。とにかく素早く囲って、素早く攻撃陣の整備にかかれるのが特徴でした。そしてもう一つが穴熊です。
☆片美濃囲い 防御力B- 玉の遠さB
横からの攻めにそこそこ強く、上から押しつぶされるともろいのが特徴
玉が右から数えて2列目に配置できるため、戦場から遠くに王様を避難させることができる。決して過信はできないが、単手数でなかなかの防御力を誇る。
金銀2枚の穴熊のため防御力は本来の性能よりも低めだが、王様を最も遠くに深く囲い込むことができる特性は健在。相手と戦いになった際に、なかなか攻撃が王様に届かないため、相手の心を折りにかかることができる。
3.難しい中飛車穴熊
中飛車穴熊の特徴は「難しい」ことです。なにが難しいのかというと陣形に隙ができやすいため、陣形を整えるのにとても難儀するのです。
将棋の格言に「玉の守りは金銀3枚」というものがあります。これは玉の囲いには金銀3枚は使うべきということを表していますが、中飛車にはこの格言を適用するのが陣形上非常に難しいのです。
中飛車は飛車を真ん中に配置する戦法であるため、当然飛車は中央に配置されます。
この中央は通常の振り飛車であれば、金銀の通り道であったり、守りの要の金を配置する場所でもあるのです。
4.失われた美濃囲い
中飛車の囲いには片美濃囲いがあるとお話しましたが、本来であれば、美濃囲いとは片美濃囲いではなく、本美濃囲いを指します。四間飛車や三間飛車等の他の振り飛車であれば、飛車が中央に来ないため、金が本来の定位置に配置することができ、本美濃囲いを作ることができます。
しかし、中飛車は飛車を配置する場所が中央であるという性質上、本美濃を作成することができず、仕方なく片美濃で戦っているのです。
5.失われた3枚穴熊
穴熊の場合はどうでしょうか?穴熊は本来であれば、囲いに2枚の金をくっつけて守りを固めておきたいのが本音です。守りの合計は銀1枚、金二枚でがっちりとさせていきたい。しかし、中飛車の場合はこちらにも制約が出てきます。
飛車を真ん中に展開しているため、左辺の守りは金を一枚配置しておかないといけないんです。
中飛車は攻撃陣を真ん中に配置する都合上、左辺に飛車を配置する通常の振り飛車とはことなり、
左辺の守りが大変手薄になっています。
そのため、本来であれば、玉の囲いに使いたい左の金を左辺の防御に回してバランスをとらなければならなくなるのです。
☆☆☆理想☆☆☆
………現実………
6.中飛車を使うなら、片美濃で戦う覚悟を決めろ!!
まとめると、中飛車は美濃囲いなら片美濃で、穴熊なら本来の防御力を失った片穴熊で戦わなければならない。もしくは、穴熊の場合なら、なんとか相手の隙をついて左の金を囲いに戦いながら近づけていくという高度なテクニックを要求されます。
そのため、多くの場合は扱いやすい片美濃囲いを選択するケースが多くこれが一番戦いやすいと私自身も中飛車とつきあってきて感じていることというか、覚悟していることとなっています。
菅井七段の中飛車は?
それでは菅井七段の中飛車はといえば、なんと中飛車穴熊が多いんですね!!
これはさすがの一言です。著書である『菅井ノート先手編』でも先手中飛車では片美濃囲いで戦うのはどうも気がのらない※と話されているほどですから、当然といえば当然かもしれません。
※左の金を左辺の守りに使うのが感覚的に良くないというような理由
2017年8月4日に行われた第67期王将戦一次予選において菅井七段は藤井聡太四段を相手に見事に中飛車穴熊で勝利をされていますが、その際もなんと左の金は左辺の守りには使っていませんでした。
1.うれしい変化
同じ中飛車でも中飛車片美濃と中飛車穴熊では使っている感覚も戦法の狙いもまったくことなります。
菅井七段は中飛車を使ってくれるのはとってもうれしいんだけど、片美濃でやってくれないんだよな…。と長年ちょっと歯がゆい思いをしていたのですが、最近になって中飛車片美濃の採用率が上がってきたのです。
2019年4月4日の第90期棋聖戦で羽生善治九段に中飛車片美濃で勝利したのを皮切りにそれ以降現在までずっと先手中飛車※では片美濃の採用が続いています。
※先手中飛車とは?
先手番で扱うことができる中飛車戦法。攻撃力が非常に高く、居飛車側の決定番と言える対策もまだでていない。振り飛車界のエース戦法。
片美濃は速攻で組んで速攻で激しく喧嘩することができるため、試合の見応えも迫力も抜群です!!
中飛車のすさまじい攻撃力をプロのわざとともに堪能できる!しかも、菅井七段という活躍中の若手プロというのもポイント大きいです。
2.プロでも健在の破壊力
よく、プロの将棋は難しくてよく分からないと言われています。この意見に私もある程度賛成です。一日の10時間以上をかけて将棋の研究をするようなプロの将棋にはとても私たちには理解できないような内容がたくさんあります。
しかし、わからない中でも戦法にはコンセプトや目的ははっきりとしています。
四間飛車なら相手の攻めを利用した反撃や、
角交換振り飛車なら相手の陣形を角交換で乱しつつ、自分は悠々と陣形づくりを進める。
居飛車急戦なら相手の準備が整う前にしかけて早めに戦いに持ち込むといったように
戦法にも一本筋がとおった目的が存在し、それを達成するために細かな研究がなされているのです。
そのため、たとえ難しいプロの将棋であったとしてもわかりやすい方針に基づいた戦法であれば、有る程度の細かいところはつかめずとも、大筋をとらえることは十分可能なのです。
中飛車は中央突破というわかりやすい目的があるので、プロの将棋であってもその大迫力の破壊力は十分に堪能することができるでしょう。
3.菅井先生の技を是非ご自宅で!
将棋の魅力は盤と駒さえ有れば、誰でもプロの技を再現できることだと私は考えています。
最初はなにをやっているのか分からないかもしれません。でも駒を並べていくうちに、新たな発見がきっと有るはずです。
「プロの棋譜は手筋の宝石箱」しかもネット上でただで手に入る。いつか有料になるかもしれない…なんて私は勝手にびくびくしたりしてます(笑)
強くなるためには、友達と対局することがもちろん一番だと思いますが、負けるとやっぱり将棋はつらいこともあると思いますので、精神的な負担も少ない棋譜並べという勉強法も是非試してみてください。