名人が3連敗?!波乱の第77期名人戦【将棋雑記】
こんにちは、ノラフェンリルです。
今日は将棋の雑記を書いていきます。
私は棋譜データベースというアプリを使って、
プロ棋士の対局をよく観戦しています。
気になる棋戦や、好きな棋士の対局がアップされると
すぐに内容を確認し、将棋盤にならべて観戦します。
今回は5月7日に行われた第77期名人戦について
解説していきたいと思います。
1. 名人戦とは
そもそも名人戦とはなにかというと、
日本将棋連盟が主催するタイトル戦の一つです。
将棋界には8つのタイトルが存在します。
簡単にご説明すると8つの大会があって、その大会に優勝すると
その大会の優勝者に称号が授与されるといった仕組みです。
例えば、今回紹介する名人戦で優勝すれば、名人の称号(タイトル)を得ることができます。
称号は名前につけて呼ばれることになります。
例えば、私が名人の称号をとったとすると、「ノラフェンリル名人」なんて呼ばれることになるのです。←恐れ多いわ!!
8つのタイトルの中でも名人は一番古い歴史あるタイトルであり、
江戸時代から約300年も続いている最も格式高いタイトルなのです。
2. 現在の名人
名人と言えば、誰を思い浮かべるでしょうか。
将棋にあまり詳しくない方は、やっぱり羽生さんあたりを思い浮かべるのかもしれません。
羽生善治九段は永世名人の資格取得者ではありますが、現在名人のタイトルにはついていません。
現在の名人のタイトルを所持しているのは佐藤天彦名人になります。
佐藤名人は2016年に羽生善治名人に打ち勝ち、見事名人のタイトルを奪取しました。
それ以降、2017年には若手の有力者として名乗りを上げた稲葉陽八段
2018年には挑戦者となった羽生前名人と戦い、両者に見事勝利し、
タイトル防衛を果たしています。
佐藤名人は名人戦以外ではまだ表立った活躍はされていませんが、
名人戦においてはまさに無類の強さを発揮し、
相手の攻撃を受けつぶす防御力の強さに定評があります。
今までも名人戦において他の追随を許さなかった佐藤名人ですが、
2019年名人戦にてまさに至難の時を迎えようとしています。
3. 永世名人の資格
名人のタイトルにも永世資格というものがあります。
永世資格とはわかりやすくいってしまえば殿堂入りのようなものです。
「あなたは名人のタイトルを何回も獲得したので、ずっと名人を名乗って良いですよ」
となった状態。これが永世資格です。
名人の永世資格、永世名人を獲得するためには、通算で5期名人を獲得すること。
つまり、名人戦という大会で5回優勝することが条件です。
佐藤名人は、今までに羽生先生から名人を奪取したとき
稲葉八段から名人を防衛したとき
羽生竜王(当時)から名人を防衛したときで
合計3期名人の資格を得ています
。
そのため、あと2回名人のタイトルを防衛することができれば、
晴れて永世名人の資格を得て、20世名人の資格を得ることができるのです。
※ちなみに19世名人が羽生善治名人となります。
しかし、2019年の現在行われている第77期名人戦七番勝負において、
佐藤名人は現在3連敗を喫してしまいました。
名人戦は七番勝負のため先に4勝をあげた方が名人の資格を得ることができます。
つまり、佐藤名人はあと1回負けてしまうと
現在の名人の資格を失い、また順位戦を勝ち抜いて、
名人挑戦者の資格を得るところからやり直すことになります。
簡単に言えば、悲願の永世名人の資格が大きく遠のいてしまうのです。
佐藤名人の名人戦に対する力の入れ方はすさまじく、
前回はタイトル100期という偉業記録のかかり、
誰が見ても流れに乗って、年齢の衰えをみせぬ強さみせた羽生善治竜王(当時)をも退
けて、タイトルの防衛を果たしてきました。
しかし、そんな佐藤名人があと1回負ければ、
名人を失うという瀬戸際まで追い詰められています。
それをやってのけているのが、豊島将之二冠(王位・棋聖)です。
4. 豊島?強いよね?
豊島二冠といえば、有明なのがこのセリフです。
「豊島?強いよね?序盤中盤終盤隙が無いと思うよ。」
このセリフは別に豊島先生のセリフではなく、
佐藤紳也七段がNHK杯のインタビューで対戦相手の豊島先生の印象を聞かれた時に
言ったセリフです。
しかし、このセリフは豊島先生の将棋の本質を非常に良く言い当てています。
豊島先生は、本当にそのまんま序盤中盤終盤隙が無い棋風なのです。
棋風というのは、将棋に現れる性格のようなものです。
例えば、攻めても、守ってもいいような局面において、どちらの判断を下すのかは、プレイヤーの性格が表れてきます。
将棋にはこうしなければならないという絶対の答えがない局面が数多く現れます。
そのときに、攻撃するのか、守りを固めるのか、はたまた様子をみるのかを自身で判断し決めていかなければなりません。
そのため、将棋のというゲームはプレイヤーの性格が非常に反映されやすいゲームなのです。
そのようなゲームに表れる性格を、将棋では棋風と呼んでいるのです。
例えば、あなたが攻撃が大好きな人であれば、つねに自分が先に攻撃できるように
ゲームを組み立てていくでしょう。
そのような場合は、「あなたは攻めの棋風だね」なんて使い方をします。
話を豊島先生に戻します。
豊島先生は非常に攻守のバランスのとれた棋風です。
序盤から常に隙が無いように動き、相手に乱戦をさせる隙を一切与えません。
実は将棋というゲームは非常に乱戦になりやすいという特徴があります。
別に序盤から乱戦をしようと思えば、いくらでもやりようはあるのです。
将棋ウォーズなどのネット将棋をなどでは序盤から奇妙な乱戦がいつも
巻き起こっています。
乱戦になれば、純粋な力勝負になることが多く、
相手のペースに巻き込まれてしまい、あっという間に負けてしまう可能性すらあります。
なので、なるべく乱戦にはさせないように
序盤に隙なく進めるのにはとても大切なことなのです。
※もちろん、乱戦好きな人はどうぞ熱い火花を散らしてください♪
そのため、序盤から隙のない豊島先生の棋風はまさに将棋の王道とも言えるような
見ていてどこか安心感を覚えます。
そんな豊島先生は昔から周りに期待されてきました。
次代の名人とも言われており、多くのタイトルを獲得するような器とも言われて来ました。
しかし、豊島先生は本当に強かったにもかかわらず、
なぜかなかなかタイトルを獲得することができませんでした。
周りからの期待がプレッシャーになっていたのかもしれません。
強いけれど、なぜかタイトルがとれない。そんな不遇の時代が長く続きました。
豊島先生が初めてタイトルに挑戦したのが20歳の頃、それから8年の年月を経て
28歳で羽生善治棋聖より、2018年7月17日に棋聖のタイトルを奪取して、
初タイトルを獲得したのです。
これまでにタイトル戦に挑戦したのは計5回。
本当に私をはじめ、豊島ファンが待ち焦がれた初タイトルでした。
タイトルがとれないコンプレックスの消えた豊島棋聖はその後、
王位戦にて菅井王位より、王位のタイトルを奪取して、
瞬く間にタイトルの二冠保持を達成、そして現在の名人戦挑戦に至ります。
もうそこにはかつてのどこか足踏みしていた豊島先生はいません。
タイトルを複数冠保持する最強の挑戦者として名人戦に名乗りをあげる、
若きエースの姿がそこにはありました。
まさに、佐藤名人は名実ともに最強の挑戦者を4回目の名人戦にして迎えることになったのです。
5. 人間の将棋
私はほんの数時間前に名人戦第三局がアップロードされていることに気づき、
棋譜を並べました。そこには人間同士の熱戦が描かれていました。
佐藤名人と豊島二冠はともに居飛車党のため、
居飛車とは、攻撃の主役である飛車を定位置から動かさない戦型のことです。
戦型はおそらく、今流行の角換わりか、佐藤名人十八番の横歩取りになると予想していました。
角換わりは大駒の角を序盤早々に交換し、いつでも隙をついて打ち込んでいけるのが特徴で、攻撃が始まると激しい攻防となるのが特徴の戦型です。
対して、横歩取りは序盤早々に飛車角の大駒を総交換になる多く、非常に乱戦になりやすい危険な戦型です。
角変わり、横歩取りどちらにも共通して言えることは、
どちらも王様の守りをしっかりと固めてから、戦うという展開にはなりづらい点です。
戦いながら、王様を攻撃から守っていくといった、
攻防一体のテクニックが要求されます。
そして、戦型は角換わりに決定しました。
お互いさぐりあいのような序盤から中盤にさしかかって、佐藤名人から攻撃が始まりました。
角換わりにも大きく二つの戦い方があります。
一つは王様を金銀の囲いの中に入れて王様の防御力の高さを後ろ盾に、
がんがん攻めていくスタイル。
もう一つは王様と金銀をバランスよく配置し、相手から攻撃される隙をなくして、
バランスを保っていくスタイル。
今回は豊島二冠が王様を中央に配置し、バランスを重視。
佐藤名人が玉を囲いの中に入れて、王様の防御力を重視しました。
角換わりは、攻撃力の塊である大駒の角を序盤に交換し、手持ちにしている性質上
中盤で攻めたり、相手に強烈な反撃を加えやすいと言った特徴があります。
そして、お互いの攻撃力が拮抗することが多く、なかなか優劣つきません。
もちろん、私のようなアマチュアの場合であれば、少し攻めまちがっただけで
あっという間に攻撃終了!!なんてことになることもあります。
しかし、プロの角換わりは本当に攻めをつなげる技術が高く、
なかなか攻撃の応酬がやむことはありません。
この名人戦第三局でもまったく同じような状況となり、激しい攻防の末、
コンピュータのはじき出す評価値はなかなか互角から振り切れることがありませんでした。
※評価値…どちらが有利な状況にあるのかをコンピュータがはじき出した値
コンピュータにとっては有利と判断されている局面でも、人間の感覚的に
は扱いにくい状況であることも多々ある。
そして、決着は本当に一瞬で起こりました。
佐藤名人が当初の予定通り、豊島二冠の王様を追い詰めようと攻撃の要である
桂馬*1を中段に跳ねました。
その手は今までのゲーム進行上非常に利に適っていて、
誰が見ても当たり前の手でしたが、それが敗因となりました。
豊島二冠はその一瞬の隙をつき、佐藤名人の王様を受けなしに持って行ったのです。
※受けなし…もうどう守っても助からない状況
敗因である桂馬跳ねに変えて、別の手段をとっていれば、
まだ勝負は続いていました。
しかし、その局面で佐藤名人はすでに持ち時間を使い果たしており、
正確な判断を行うための時間がまったくありませんでした。
※持ち時間…各対局者に与えられている時間。名人戦では9時間。
持ち時間が無くなると1分で将棋を指さなければならなくなる。
そして、正確な判断ができなくなったら、
頼るものは自身の感覚しかありません。要するに「感」です。
「こうすればいいような気がする」という今までの経験で指すしかなくなります。
そして人間はミスをする生き物です。
たとえコンピュータの評価値が互角の評価を下していたとしても、
たった一つの間違いが勝敗を分けてしまうことがあるのが将棋というゲームです。
機械ではなく、人間同士だからこそできる駆け引きや時間の使い方、それこそが人間通しで将棋を行う醍醐味だと私は考えています。
6終わりに
雑記で軽く書くつもりだったのですが、
気づけば過去のブログ最多の文字数になってしまっていますね(笑)
最近将棋界ではやっと世代交代が起きてきたかなという印象があります。
平成の太陽、羽生善治先生がすべてのタイトルを失い無冠となり、名人戦を
28歳の豊島先生が名人獲得まであと一歩というところまで来ている現実を見ると
それが顕著になっているように感じます。
そんなプロ棋士のパワーバランスや戦型の発展に注目しつつ、
その棋士の歩んできた歴史を振り返れば、
将棋はもっと楽しくなるのではないかと私は思います。
将棋は人間が指すからこそ、ドラマがあって面白い。
AIやコンピュータが発展した時代だからこそ、この人間らしさ将棋においても
重要なキーとなってくるような気がしております。
ここまでおつきあいいただき本当にありがとうございました。
また次回他の記事にてお会いしましょう。
失礼いたします。
*1:最も機動力がある小駒で一気に2マス分移動することができる